わかりやすい高山病の予防と対策

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高山病とは、標高が高い場所で酸素が不足して起こる症状です。

富士山では無理な行程と高山病の知識不足により、動けなくなったり横たわっている登山者を頻繁に見かけます。キリマンジャロやヒマラヤではフラフラになりつつ、なんとしてでも登ろうとする危険な登山者を見かけます。

その症状には個人差が大きく、予防や症状が出た時の対応には知識が必要です。高い山への登山や海外の高地旅行の前に高山病について勉強しておきましょう。私は南米の6000m峰までお客さんを案内することがあります。低酸素室を管理していたこともあります。これまでに多くのお客さんを見てきた経験を基に、高山病について書いてみます。

きちんとした知識があって無理をしなければ高山病は決して恐くはありません!
でも無理をすると危険な状態に陥る可能性もあります。

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高山病とは

高山病とは、低酸素状態に体がおかれた時に起こる症状のことです。宿泊地の標高が3000mを越える場合、高山病の注意が必要となります。個人差はありますが一般的に高山病は2800mくらいから症状が現れ始め、4000mを越すとほとんど誰でも何らかの症状が出ると言われています。発症の程度には個人差がとても大きく、また体調によっても発症の程度の差が大きくなります。症状によって①急性高山病、②高地脳浮腫、③高地肺水腫に分けられ、①→②→③と症状が進んでいきます。

急性高山病

わかりやすく書くと、高い場所に行った場合には空気中の酸素が減るので、酸素が足りないよ!と体が反応することです。この急性高山病は高い山に登れば、誰でも経験することで、それほど恐れることはありません。主に頭痛消化器系の不調(食欲不振や吐き気)が症状になります。大事なのはこの状態で無理をしないこと。症状が高地脳浮腫へ進むことを止めなければいけません。私もこのレベルの高山病なら何度も経験しています

通常であれば、日本の山(富士山など)で高山病を発症してもこのレベルで留まります。

高地脳浮腫と高地肺水腫

海外の高所登山になれば、このような症状になる可能性があります。安静時でも呼吸が困難になったり精神状態の変化が見られるようになります。悪化すれば死に至ることもあります。私はこのような高山病の症状は未経験です。富士山などの登山や海外の4000m前後の山では、気にしなくていいと思います。キリマンジャロ(5895m)レベルになれば、ちょっと気をつけないといけません。主にヒマラヤに登る遠征隊などが注意を払うレベルです

どんな人が高山病になりにくいのか

個人差はもちろんありますが、これまで案内してきた中でハッキリといえるのは、私のアドバイスを素直にしっかり聞いてくれる方です!私と高所へ登ったお客さんには、あれはダメ、これはダメ、ああしろ、こうしろと、行動について色々アドバイスします。それを守る方ですね!でも殆どの方はガイドと歩いたことないでしょう。そういった方の為に、これからアドバイスしたいと思います。

ボリビアの6000m峰ウトゥルンク

高山病にならないコツとは

富士山で高山病にならないために

富士山や海外のキナバル山、玉山などで高山病にならないために以下のポイントに気を使いましょう。

出発前の体調を万全にする

風邪をひいていたり体調が悪いと高山病は顕著に現れます。出発前の体調を万全に整えて下さい。

とにかくゆっくり歩く

これが一番大事です。3500mを超えれば体への影響が強くなります。まず頭痛、そして息切れや目や顔がむくんだり、食欲も減退します。なんだか足が重い感じもするでしょう。徐々に高地に体が順化すれば自然に治ります。急いで登るのは絶対にダメ!

しっかりと水分を補給する

脱水症状にならないように意識して水を飲むように心がけます。富士山クラスでは1日2リットル、キリマンジャロやチベットでは1日3~4リットルの水分補給(食事の水分を含む)を心がけましょう。目安として、尿の色を薄い黄色に保つことです。水だけ大量に飲むのはしんどいので、私は温かい飲みを頻繁に飲むようにしています。キリマンジャロやヒマラヤなら紅茶、アンデスならコカ茶。チベットのバター茶は苦手。高所では到着後に水分を補給しながらのお喋りタイムが重要!

すぐに横にならない

宿泊地に着いても、すぐに横にならないように心がけて下さい。到着後にすぐ眠ると急激に呼吸数が減るので順応が進みません。上記のようにお茶を飲んでおしゃべりをしたり、近くを散歩などして過ごすのが良いでしょう。

腹式呼吸を意識する

常に意識をして腹式呼吸をして酸素を取り入れます。コツは口をすぼめてゆっくり吐きだすことです。しっかり吐かないと意味がありません。

鼻腔を広げるテープは効果的

いびき防止やスポーツ選手などが鼻につけるテープ。これは鼻の通りが良くなり睡眠時に効果的です。行動中に貼る場合は日焼けに注意!

睡眠薬を飲まない

入眠剤あるいは睡眠剤は絶対に飲まないように! 飲むことによって呼吸が抑制され高度障害がすすんでしまいます。

体温を落とさない

寒いと体が冷え呼吸数も減ってしまいます。しっかり防寒着を着用しましょう。

アルコールは飲まない

酒好きには厳しいですが、高所でアルコールは脱水状態になりやすくなります。

海外の高所で高山病にならないために 〜6000mまでの山

キリマンジャロやネパール、チベット、アンデスなどで有効な高山病対策。6000mを超える山はガイドと登って下さい!

富士山などで予め高度順応しておく

高度順応の効果がいつまで保つかは個人差も大きく、ハッキリとしていないようですが、出発前に富士山などに登るのは効果が大きいです。

低酸素室を活用する

私は低酸素室の管理もしていたことがあるので、よくわかかります。通常の1時間利用では残念ながら順応は不可能です。低酸素状態の体験といったところでしょうか。しかしながら、血中の酸素飽和度(SPO2)を測る機械を装着し、高所での呼吸の練習ができます。どのような呼吸をするとSPO2が上がるか体験できるので有効かと思います。

ダイアモックスを服用する

緑内障の薬ですが、高山病の予防に効果があります。しかし高山病はダイアモックスの適応症に入っておらず、また、日本では医師の処方がないと入手できません。行きつけのお医者に頼めば処方してくれるかと思います。利尿効果があるので、夜間の尿が増えます。個人的には指先がしびれる副作用が毎回起きます。

パルスオキシメーターを持参する

自分の現在の状態を知ることはとても大切です。パルスオキシメーターを利用することで、血中の酸素飽和度を測ることができ、高山病の状態を知ることができます。以前は医療機器で高価でしたが、今は手軽に購入できます。

心を許せる楽しい仲間や信頼できるガイドと登る

いつもポジティブに、楽しい仲間や信頼できるガイドと励まし合い、リラックスして笑いながら登るのは重要。

お腹いっぱいご飯を食べない

高い山に登るので、いっぱい食べて元気出さなきゃ!! っていう考えは捨てちゃいましょう。
標高が高いと少し動いても息切れするように、内臓も標高が高いと下界のような消化能力を発揮できません。それなのにお腹いっぱい無理して食べちゃうと、消化不良を起こし、調子が悪くなります。無理に食べず、エネルギーは消化の良い行動食で補給してもいいのですから。

写真を撮りすぎない

写真を撮る時は息を止めて、構図を決めてシャッターを押します。その何気ない行為が、高所ではとても大きな負担になります。特に高山植物を撮ろうと屈む場合は要注意!立ち上がると目眩がして、フラフラすることも。特に一眼レフの場合は注意です。

高山病の目安 血中の酸素飽和度を知る

体内の酸素量は高度順応の度合いを知る目安となります。その指標の一つに動脈血酸素飽和度(SPO2)があります。酸素は肺胞から血液中に取り込まれるとき赤血球のヘモグロビンを結合しますが、動脈血酸素飽和度はその割合を示すものです。上記のパルスオキシメーターで計測することが可能です。平均を大きく下回るようであれば、下山が賢明です。脈拍は個人差が非常に大きく、推移を確認することが重要です。健康な人ならば、平地では99%〜97%の値が出ます。

標準的酸素飽和度(キリマンジャロ登山の場合)

標高 SPO2平均値 脈拍数平均
1800m 93% 88
2700m 91% 90
3700m 84% 94
4700m 75% 102

高山病になってしまったら

症状がひどくない場合

安静にしてゆっくり休み、体が順応するのを待ちましょう。それ以上高度は上げずに休憩しましょう。酸素摂取量を上げるために、ゆっくり体を動かすなどして腹式呼吸を心がけましょう。

少量のアスピリン系の薬は有効です。痛みも取れますが、血液がサラサラになり、粘性が高まった状態を改善できます。

症状がひどくなった場合

激しい頭痛・突発的な嘔吐・意識の錯綜・視野の狭まり・ふらつきなどが生じ始めたら、絶対に下山しましょう!根本的な対策は標高を下げることです。標高を下げると、嘘のように症状は良くなります。チベットやアンデスのように簡単に標高の落とせない高地へ行く場合は症状をしっかりと確認し、きちんと順応できていない場合は諦めることも必要です。キリマンジャロではこんな感じで下山します。※写真は遊びです

酸素缶は効くの??

富士山で売っている酸素缶はほとんど心の問題です。。。数リットルの酸素で状態が改善することはありませんが、メンタルの面もありますので否定はしません。悪化することはないですからね。

高山病で非常に危険なケース

同僚から報告のあった危険なケースについてお伝えします。上記に書いていたことを理解し、守れていたら起きないようなことです。真似しないように!

睡眠剤を服用し意識不明に

睡眠剤、入眠剤の服用はダメと伝えていたにも関わらず、無視して服用。夜中に意識が飛び、呼吸が止まるほどの症状に。SPO2は40台。ガモフバック(携帯型の加圧機で1500m分標高を下げられる)で時間を稼ぎ、準備ができ次第タンカで下界へ搬送。対応が遅ければ死んでいた可能性。下山後はケロッとしていたらしい。

高所で大量のアルコールを摂取し死亡

日本人ではないですが、4000mほどのロッジで白人の若者グループがお酒で大盛り上がり。かなり酔っ払っていたとか。翌日そのうちの1人が亡くなっていたそうです。。。

高山病に気をつけたい場所

歩かずに交通機関で一気に標高を上げると高山病になりやすくなります。どんな場所があるのでしょうか。

木曽駒ヶ岳の千畳敷(2612m)

ロープウェイで一気に標高が上がります。到着後は体を慣らしてから歩きましょう。

立山黒部アルペンルートの室堂(2450m)

こちらも車やロープウェイで一気に標高が上がります。到着後は体を慣らしてから歩きましょう。

チベットのラサ(3570m)

チベットのラサ空港は3570mと富士山並の標高。突然この標高に降り立つと息切れ必死。地形的に標高が簡単に落とせないので、チョモランマBCなど奥を目指す場合は3日間ほど順応で滞在します。

ペルーのクスコ(3400m)

マチュピチュを目指す観光客が多く訪れるクスコ。目指すマチュピチュは2400mと低いので、クスコに泊まらずもっと標高の低い周辺の村に宿泊することをすすめます。

ボリビアのラパス(4060m)

ウユニ塩湖を目指す観光客が多く訪れます。さすがに空港の4000mは自分でもしんどいです。最も厳しい環境の国際空港でしょう。現地のバスには酸素ボンベを積んでいます。幸いなことにラパスの街は3500m前後。街はすり鉢状になっているので、標高の低いホテルに宿泊するようにしましょう。ちなみにウユニ塩湖も3000m以上ありますが、ラパスである程度順応できるので、それほどしんどくありません。

チベットでは5000mを越える高地でも、人々は生活をしています。人間の能力として、そのくらいの標高までは行けるはずです。但し、順応には個人差があります。ゆっくりと焦らず時間をかけて馴らしていけばまず大丈夫!経験者のアドバイスを尊重してチャレンジしてみて下さい。

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