マッターホルンの登り方

海外の山を案内していて、お客さんが現実的に登れる山で難易度が高いのマッターホルン。

スイスのツェルマットから見上げるマッターホルンは世界で最も美しい山の形をしているのかもしれません。
山をやっていれば、誰でもあの頂に立ちたいと思うのでは??

一般的なヘルンリ稜からの登山について書いてみます。

マッターホルンとは

マッターホルンとはスイスとイタリアの国境に聳える、4478mの鋭く尖った山。
スイスからはツェルマット、イタリアからはチェルビニアという村が基点になります。

1865年にエドワード・ウィンパーらが初登頂し、下山でロープが切れて死亡者が出たのは有名な話です。
現在でも毎年のように死者が出て、マッターホルンで亡くなった登山者は500名を越えます。今でも毎年のように日本人登山者の死亡事故があります。ちなみに世界で死者の最も多い山は日本の谷川岳で800名を越えます。

マッターホルンはスイスでの呼び名

リュッフェルゼーからの逆さマッターホルン

 

イタリアでの呼び名はチェルビーノになります

イタリア・チェルビニア村からのチェルビーノ

マッターホルンの登り方

マッターホルンではガイドと登るか、個人で登るかで大きく難易度が異なります。以下のような感じかな。

ガイド付き登山 >>>>> ガイドなし(複数)>>ガイドなし(ソロ)

事故の確率としては、ガイドなしのソロ登山がやはり高くなります。
有名な山は、技量や体力の足りない登山者もチャレンジしてくるので、どうしても事故は増えます。。。

マッターホルンの登山日程

以下が一般的な登山日程ですが、一つ問題があります。
シュヴァルツゼーからの最終のゴンドラは16:30! ということは14:30〜15:00にはヘルンリ小屋を出たい。

ツェルマットよりゴンドラでシュヴァルツゼーへ。
シュヴァルツゼーよりヘルンリ小屋へ。
早朝よりマッターホルンアタック。
ヘルンリ小屋に下山後、シュヴァルツゼーへ。シュヴァルツゼーよりゴンドラでツェルマットへ。

ガイド登山であれば、問題なく下山できますが、個人だとギリギリになってしまうかもしれません。
山は急ぐと危ないです。焦らないで歩けるように個人の登山者は以下の日程を勧めます。

ツェルマットよりゴンドラでシュヴァルツゼーへ。
シュヴァルツゼーよりヘルンリ小屋へ。
早朝よりマッターホルンアタック。ヘルンリ小屋に下山後、宿泊。
シュヴァルツゼーへ。シュヴァルツゼーよりゴンドラでツェルマットへ。

安心なガイド同行の登山

一番登山者が多いのはこのスタイルになります。ツェルマットのアルパインセンターで申し込みをします。またはいろいろなガイド会社や旅行会社が募集をしています。個人的には、イド同行の登山を強く勧めます。

レベルの低い登山者がアタックをしないように、事前にチェック登山が行われます。もちろん、モンブランやアイガーに登ったことが証明できれば、不要な場合もあります。事前チェックはブライトホルンのハーフトラバースやリュッフェルホルンなど。せっかくスイスまで行ったけど、OKが出ずにチャレンジできずに終わる方もいます。。。

スイスの現地ガイドは基本的に非常に厳しく、とにかく早く登って早く下りることに徹しています。写真タイムはおろか、休憩すら殆どありません。ホスピタリティーというか、山を楽しませてくれるって感じではないです。ガイドと一緒にマッターホルンに登っている最中の写真が少ないのはそういった理由です。そのかわり、マッターホルンを知り尽くしているので安全なのは間違いありません。

ガイドと登る場合はロープワークの技術は必要ありません。
しかし、日本でいうと大キレットやジャンダルムは全く問題なく、スルスル登る岩場の技術とバランス感覚が必要です。そして、安全のために素早い行動が求められるので、スピードが必要です。山と高原地図のコースタイムが切れないようだと話にならないです。4500mを超える高所で素早く動くことは慣れないと非常に厳しいです。個人的には岩場の技術より高所でのスピードを持った行動のほうが重要かと思います。

ちなみに私は国際ガイドではないので、マッターホルンを案内することはできません。したくもないけど(^_^;)

ガイド登山のメリット

安心して登れることに尽きます!

ガイド登山のデメリット

①コストが掛かる
当たり前ですが、ガイドと登るとコストが掛かります。安全をお金で買うので当たり前です。

②日本のガイドより厳しい
日本のガイドは概ねスイスのガイドより優しいです。それに慣れていると厳しい!!と感じるでしょう。少しでもダメと思えば、即座に下山です。

③歩くのが速い
日本だと写真を撮りながら、景色を説明しながらガイドしたりしますが、ほぼありません。とにかく急いで山頂へ。可能な限り早く下山。ザイルを結んで引っ張られながら歩く登山者を見て、犬の散歩のように見えたこともあります。

ガイド登山のコスト

日本からの募集ツアーでは700,000〜850,000円程度で募集しています。現地で山頂アタックのガイドだけ雇えば150,000円くらいです。しかし、事前チェック登山、高所順応登山などを入れるともっと高くなります。いろいろな交渉も大変です。トータルで見ると日本からのほうがやや高くなりますが、出発前の情報や相談にも価値があります。また出発前にお客さんの力量を判断して、アドバイスをくれると思います。現地の旅行会社なら飛行機無しで10日間CHF6,500程度。結局は同じ程度の料金に収まります。

ハードルの高い個人での登山

マッターホルンではガイドの同行は義務ではありません。個人でも登れますが、それに相応しい登山能力が必要となります。当然ながら、ロープワーク技術がやクライミングの技術も必要です。ザイルなどガイド登山よりも多くの装備が必要となるので体力。そして何よりしっかりしたタイムシュミレーションとそれを管理できる能力。緊急時の対応能力など総合的な山の経験が必要でしょう。日本なら北鎌尾根や前穂高岳の北尾根などをリードして歩けるレベルは最低限必要です。

個人で登る理由が金銭的なものであるなら、中止するかお金を貯めてガイドを雇って下さい。自分達が危険なのはもちろん、周辺の登山者にも迷惑をかける事になりかねません。

個人登山のメリット

①お金がかからない
ガイドを雇わないので、自分にかかるお金だけ

②好きなペースで歩ける
好きなペースであるいてOKですが、マッターホルンは時間のかかる山。その計算だけはしっかりとしましょう。

個人登山のデメリット

①時間がかかる
現地ガイドのように道を覚えられません。特に下山時は難しい。道に迷ったり、下降する時の確保の場所など考えながらやっていると時間はあっという間に過ぎていきます。技術的なことより時間かな。。

②撤退など冷静な判断
撤退の判断がきちんとできるのか? 天候が崩れても、せっかくここまで登ったのだから。。。なんて邪念を入れずに下山判断できますか??

③事故は個人ばかり
ガイド登山だから100%安心とはいえませんが、事故は圧倒的に個人登山者です。憧れのマッターホルンとはいえ、今や命をかけて登る山でもありません。日本にはないタイプの山なので、日本の経験はあてにならない事が多い。ガイドを雇う安心感は半端ないです。

気をつけたい個人ブログの登山記やネットの情報

私もマッターホルンの登山記をブログに書いていますが、基本的にネットは自慢の場所です。
いい情報もありますが、登った登山者に都合のいいことしか書かれていない場合が多い。ネットのうまくいった情報は参考にしても話半分くらいに思っておいて下さい。そして、yahooの知恵袋なんかは嘘とホントが入り混じっていますヘルンリ小屋では靴が凍るので抱いて寝るなど、ありえない答えがあったり。まともな登山者は、命がかかるような重大なことを、どこの誰が返事するかわからない場所でなんか質問しませんよ。
うまく登った人のサイトより、失敗した人のサイトのほうが役に立ちます。

私の登山記

マッターホルンに登ってきた!
世界中の登山者の憧れ、マッターホルンに登ってきました。現地ガイドと登るのに比べると圧倒的に難しくなりますが、自分達だけで楽しみながらの登山です。こういう仲間がいるのは幸せだなと実感しました。独立してよかったと心から思いました。

 

マッターホルン登山の注意点

①有効な保険に加入
必ず海外旅行傷害保険に加入して下さい。万一の時、莫大なお金が必要となります。マッターホルン登山は危険を伴う行為とされ、通常の保険ではカバーされません。運動割増が必要になります。必ず加入時に確認して下さい。

②高度順化をしておく
日本なら富士山に事前に登っておく。スイスならマッターホルンの前にブライトホルンに登っておくなど。いくら体力があっても、技術があっても、高山病になれば失敗します。特に個人の方は、自らが技術的なことをしなければいけません。頭がぼ〜ってすると、非常に危険です。

③ガイドなしでのグループ登山は時間のロス
何人で登ってもいいですが、必ず2人1組で行動できるようにしておきましょう。例えば4人で1本のロープなんていうのは時間のロスが非常に大きいです。

マッターホルンのルート解説

シュヴァルツゼーからヘルンリ小屋までは一般的なハイキングルートなので説明は不要かと思います。

マッターホルンの登山はヘルンリ小屋に着いてからが始まり。
個人で登る登山者は、アタック前日に絶対に下見をしておいたほうがいいです。
真っ暗中、いきなり岩場を歩くことになるので。

ヘルンリ小屋

マッターホルン登山のベースとなる山小屋です。
昼間はハイキングのお客さんでテラスがいっぱいになることもあります。

まず予約時にCHF50、そして宿泊時にCHF100となります。
日本の山小屋とは比較するのが申し訳ないくらい、きれいで快適なのですが、高い。。。
ビールはCHF7、コーラもCHF7、1.5Lの水がCHF9となかなかのお値段。

小屋からは絶景!登らなくても泊まりたい景色

レストラン
大きな窓で開放的です。

夕食はボリュームたっぷり
スープ・メイン・デザートの3コース

まるでホテルのような感じ

部屋は基本6人部屋です。
荷物部屋、ロッカーもあります。サンダルも完備。シーツは各自持参

もちろん水洗トイレでシャワー(有料)もあります。

朝食はシンプル。朝早いので充分。

時期によって朝食と出発時間が決まります。この時は4:20以前の出発は禁じられていました。

食後に出発ですが、
①現地ガイド&顧客 ②他の国際ガイド&顧客 ③個人 の順に出発です。

ヘルンリ稜登山

私が登山前に一番活用させてもらったのが、下記の画像です。

とってもイメージをつかみやすいし、岩場のグレードが出ています。
わかるかと思いますが、赤い点線がルート、緑の点線がフィックスロープ、黒いマークが下降時の支点、赤い数字がUIAAの岩場のグレードです。ソルベイ小屋の前後以外はⅡ級になるので、特別難しいところはないということです。これは積雪や凍結のない場合です。あれば難易度は跳ね上がります。

参考までに UIAAのグレードでは以下になります。

Ⅰ級 まったく易しい(三点支持不要)
Ⅱ級 易しい(三点支持要す)
Ⅲ級 やや難しい(ロープによる確保を要す)
Ⅳ級 難しい (やや高度なバランスを要す)

 

http://1.bp.blogspot.com/-fJMrJdlkjmk/UfAFODgxJFI/AAAAAAAAH34/OZj2c_kQVl8/s1600/croquis.jpg

最初の壁

登山者が多い日は、最初の壁で必ず行列ができます。
ただ、それはコンディションのいい時という意味でもありますが。

太いフィックスロープをつかんで一段上がり、左へ続くロープを掴んでトラバースするとテラスに出ます。
その先は尾根の左側面の、やや歩きにくいザレ場進みます。(個人は明るいうちに下見しておきましょう)

昼間の様子

道間違いに注意

この先ソルベイ小屋まで特にこれといったポイント名はありません。
ガイド登山の場合はひたすら頑張ってついていきます。ソルベイ小屋まで休憩はなしです。
聞いた話ですが、休憩予定はソルベイ小屋だったのに、素通りしたので休憩しないか確認すると、下りのソルベイ小屋で休憩と答えられたとか(^_^;)

個人は道を間違えないように、先行者をよく確認しながら。先行がガイドでなければ、間違えている場合もあります。無条件についていかないようにしましょう。コースはヘルンリ稜のやや東側にあります。終盤まで稜線歩きは殆どありません。

時々、残置のスリングなどを見かけますが、殆どの場合ルート間違いです。残置めがけて登らないように!

ソルベイ小屋

ソルベイ小屋直下のモズレイスラブが最初の難関。上の図で3-と書かれているポイントです。
安全の為、ロープを出しました。

緊急時以外宿泊禁止ですが、韓国人は日常的に宿泊しているようです。現地ガイドともめているのを目にしました。緊急時以外は宿泊してはいけません。

小屋にはトイレと数人が寝ることができるスペースがあります。

この先もしばらくは簡単な岩登り

巨大なフィックスロープ

日本人が最も手こずるのが、このフィックスロープかと。
頂上直下では難易度の高い壁をこのロープで登る箇所があり、腕の力に頼るとすぐにパンプ(腕の筋肉がパンパン)してしまいます。マッターホルンを相手に綱引きのよう(^^)

岩と雪のミックスコンディション

どこかでアイゼンを装着するタイミングがきます。必ず岩と雪のミックスになります。慣れていないと非常に歩きにくいので、日本で練習をしておくといいでしょう。

山頂直下の雪壁

コンディションによるかと思います。ピッケルが不要な時もあれば、アイスバイルがほしい時も。
適度に雪があれば、フィックスロープよりははるかに楽に登れると思います。

マッターホルン・スイス山頂(4478m)

マッターホルンの山頂直下には聖ベルナール像があります。
疲れているとただの支点にしか見えないかもしれませんが。

普通のガイド登山ではここが目的地。聖人像の首をロープの支点にするのですが、絞め殺しているみたいに見えます。。。

マッターホルン・イタリア山頂(4476m)

スイスの山頂からさらに数分歩きます。細いナイフリッジの稜線です。
絶景が楽しめます。

ここまで来たら、完璧なマッターホルン登山です!

マッターホルンの下山

ガイド登山の場合は全く問題ありません。スルスル??って上手にリードされながら下っていきます。
危ない岩場もしっかり確保してくれます。当たり前ですが、ガイド目線で見てもメッチャ上手だなって思います。自分にはできません。きっとお昼すぎにはヘルンリ小屋に到着するでしょう。

個人の場合は、ずっと時間がかかります。道を間違えないようにしたい。しかし、なかなか難しい。登りで体力を使い切らないように。最後まで集中するように。事故の大半は下りですからね。

マッターホルンの登山装備

コンディションにより実際に持っていっても使わないものもあるかと思います。
またガイド登山と個人でも差があります。

品名 備考 ガイド 個人
登山靴 冬山用登山靴 保温性の高いもの
アタックザック コンパクトなもの 20〜30L程度
防寒着 ダウンやフリースなど。着て行動できるもの
オーバージャケット 防寒性と防水性に優れたもの。レインウェアは✗
オーバーパンツ 防寒性と防水性に優れたもの。レインウェアは✗
アンダーウェア メリノウールなど
ミドルウェア 速乾性に優れたもの
クライミンググローブ 丈夫な革製がおすすめ
アンダーグローブ 速乾性と保温性を備えたもの  ○
オーバーグローブ クライミングができるもの。ミトンは✗
靴下 冬山用がおすすめ
ビーニー 防寒用
ネックゲイター 防寒用
ゴーグル 風が強い場合に使用
サングラス 紫外線は強烈
アイゼン 12本爪。足場の悪い場所で立って装着できる練習を。
ピッケル 山頂直下で使用する場合も
ハーネス アルパインハーネス
ロック付きカラビナ ハーネスに装着します。HMS式がおすすめ。
カラビナ ロック付き、ロックなしを複数枚
スリング 60cm2本、12cm2本
ヘルメット 登山用
ヘッドランプ 予備電池も持参
水筒 1〜1.5L
テルモス 0.5L程度 小屋でハーブティーの提供あり
日焼け止め 日焼け防止
行動食・非常食 軽くてカロリーの高いもの
ザイル シングル 50〜60m
個人用ツェルト 万一のために
インナーシーツ ヘルンリ小屋で使用

難しい山ですが、だからこそ登頂した時の喜びは大きなものとなります。
しっかり準備をしましょう!

マッターホルン登山記

マッターホルンに登ってきた!
世界中の登山者の憧れ、マッターホルンに登ってきました。現地ガイドと登るのに比べると圧倒的に難しくなりますが、自分達だけで楽しみながらの登山です。こういう仲間がいるのは幸せだなと実感しました。独立してよかったと心から思いました。