徒歩で知床岬へ ヒグマが超至近距離!

登山ガイドの沖本です!

2025年の8月は、久しぶりに知床岬のトレッキングへ行ってきました。
なかなか大変なコースなので、一緒に行く人は選ばないといけません。

リスクとリターンを考えると、ビジネスとしては全く成り立たないので、半ば常連さんへのサービス的なツアーです。ちょっと調べても、知床岬への募集ツアーは見つかりませんもんね。ネットからの初めてのお客様とかは絶対に案内できません…

徒歩で知床岬へ

知床岬へ行く方を増やしたいわけじゃない、むしろ行かないで欲しい。ということで、今回は行程を詳しく書くことはやめておきますね。その代わり、地質とかについて普段より詳しく書いてみます。

知床岬へ歩く事前の準備

知床岬へ行くには、体力、技術力、自然への知識が総合的に求められます。半端な気持ちでいかないようにしましょう。

必要な装備
テント類一式、大型ザック、ヘルメット、1人1本の熊スプレー、ベアコンテナ、サワタビか渓流シューズ、ロープなど登攀具

殆どの方が未経験な、大型のザックに荷物を背負って海岸線や海の中を歩くといった行動が必要になります。また潮の満干や月齢なども頭に入れておくことが、海岸の難所のポイントを通過する際に必要です。

出発の前日はルサフィールドハウスで情報の確認

これくらいの大きさのクマなら、そんなに怖くないんだけどね〜 ※感覚が一部麻痺しています

知床岬トレッキングと知床半島の地質

常に危ないよ!って伝えている知床岬のトレッキングの案内。もちろん禁止はされていません。万全の準備をして行きましょう的な事を書いています。

危ないからと、何でもかんでも禁止するのは反対です。きちんと準備をして、自己責任で入っていくいわゆる冒険する人を認める社会であってほしい。

現在は殆ど使われなくなった、番屋の並ぶ海岸からスタートです。

あちこちで大量の高級羅臼昆布が打ち上げられています。昆布の上を歩くと、めっちゃ滑ります。
過去に知床岬へ歩いた時は、この上を歩いてコケました…

延々と海岸を歩きます。下ばかり見て歩きがちですが、少し見上げると知床の地層がダイナミックでとてもおもしろい。

私は地理学科出身なので、ちょっと解説してみましょう(笑) 間違っていても突っ込まないでそっとしておいてください!

① 火山砕屑岩
上部の黒っぽく垂直に近い崖は、火山活動によって流れ出た溶岩や、火山灰・軽石などが固まった火山砕屑岩の層になります。
これらの岩石は非常に硬くて、侵食に対して強いため、険しい絶壁として残っています。

② 凝灰岩
写真の中央左寄り、緑の斜面と黒い岩壁の境界付近に、白っぽい地層が帯状に露出しているのが見えます。
これは①の新しい火山岩より古い時代の凝灰岩かと。凝灰岩は火山灰が海底に堆積して固まったものです。きっと海底火山時代の物が隆起したものです。黒い火山岩に比べて柔らかく脆いため、波や風雨によってえぐられるように侵食されやすいのが特徴。

③ 崖錐
硬い岩壁の下に広がる、植物に覆われたなだらかな斜面。地質というより、地形です。
上部の岩壁や柔らかい地層が崩落し、崖の下にガラガラと積み上がった斜面です。登山をしていると北アルプスの槍穂高あたりでもよく見られます。

④ 海岸
海岸に敷き詰められている石を見ると、角が取れて丸みを帯びているのがわかります。
崖から崩れ落ちた硬い火山岩が、根室海峡の荒波によって揉まれたことに加え、冬場に押し寄せる「流氷」による強力な氷食を受けた結果かと。

ここなんて凄いですよね。洞窟みたいになっています。
当初は海岸付近で波や氷河に侵食されて、きっかけができ、長い時間をかけて隆起。その間に内部の凍結破壊などによって大きくなったと考えられます。

歩きやすい海岸が続けばいいのですが、そんな訳はありません。
硬い火山砕屑岩が海岸までむき出しのところは、海から急な崖になっています。

知床半島先端部へは、海岸線歩きと崖を登りやヘツリが交互にやってきます。残置ロープはあまり信用できません。絶対に頼り切らないようにします。

巻き終わると、川を渡るシーンも出てきます。

サワタビに履き替えればなんてことはないのですが、時間がかかるので。
これくらいは歩けないとね!岬まで行くのだから。

飲料水はこういった川の水を濾過して入手します。

また歩きやすい海岸線になりました。番屋の廃屋が点々としています。

次は巻かないで海岸線をへつっていきます。

ここはちょっと岩の雰囲気が違いますよね。
これは凝灰角礫岩だと思います。噴火の際にマグマや火口周辺の岩石が粉々に砕け散ったものが降り積もります。それらの大きな岩の破片の隙間を、細かい火山灰や砂が埋めて、自らの重みと熱でガッチリと押し固められたもの。火山灰が混じっているので、知床半島では比較的柔らかい岩です。

取り込まれた石がホールドになるので、こういった岩のところは、歩きやすい。

ま、歩きやすいというのは比較で、他が大変過ぎるからということですが。

次の面白い地形です。岩脈がみられます。

岩盤に巨大な亀裂が入り、そこへ地下の深部から新たなマグマが板状に這い上がってきた様子がわかります。マグマは噴火することなく、岩盤に挟まれたまま地下でゆっくりと冷え固まったようです。

マグマが冷えて固まる時に、体積が収縮することで規則的な割れ目の節理ができます。節理には冷やされる面に対して垂直に伸びるという性質があります。このマグマは岩盤に挟まれて横から冷やされたため、横向きにの節理になりました。

大規模なマグマだと岩盤に挟まれて冷やされるより、大気によって冷やされるので、上向きの柱状節理になります。

 

一般には波食台という地形。波の力で侵食されてできるのですが、知床半島のはとても立派であちこちにあります。それは波の力は当然あるけど、流氷の力がとても大きいからです。流氷による氷食(侵食)作用が波と比べて強烈なので、平らで広い地形が作られます。

干潮の時間帯なので難なく通過。往路は時間を調べて計画的に行けますが、満潮なら海の中。復路は要注意ですよ。

 

シカの角を発見!! ヒグマに食べられたやつです。

トナカイクラスやん!!立派すぎて持って歩きたい衝動に駆られた。

最低でも5kgはあったと思います。邪魔なので、少し遊んで捨てました。

岩のアーチをくぐって行きます。これも波や流氷で侵食されてできたものですね〜

次は垂直に切れ立った海岸

海岸線を行けないところは巻いてよじ登ります。ここもロープは過信しないように!

巻いたら、モイレウシ川と海岸へ。水の補給は忘れずに。

この先の地形もまた面白い!右の赤く囲んだところは海蝕崖、左の小さな囲みは海蝕洞といいます。一般的には波で侵食されてできるのですが、ここは流氷の来る知床。流氷の圧倒的な侵食の力がここでも想像できます。地形的に考えて、左の岩は右の岩と繋がっていたはずですが、侵食で分離したと考えられます。

この海蝕崖に入るタイミングで、登山靴から沢靴へ変更。干潮のタイミングから潮が満ちてき始めました。ここは登山靴で行けると思っていたけど、ちょっと遅かったみたい。

沢靴を履けば、バシャバシャと遠慮なく進めます。
この岩は剣岩といいます。かつては陸続きだったはず。弱かった部分が侵食されてこのような形に。
陸の岩にも縦に亀裂が走っています。このあたりは集中的に侵食されて、長い時間をかけて海蝕洞になっていくのしょう。

そして波食台の海岸へ。先程の波食台のポイントより潮位が上がり、水の中になっています。

水深が深いところは登山靴に履き替えてへつっていきます。重い荷物でこういうことばかりしていると、登山靴は傷みますよ。

ペキンノ鼻って呼ばれるところまでやってきました。あの丘を超えてから海岸にテントを張ることにします。

お疲れ様でした!!1日目終了〜
知床岬へ行くには、テントは海岸に張るしかありません。ここで気をつけたいのは、ヒグマです。

ポイント
① ヒグマも歩きやすい海岸をウロウロする
② 食料やゴミはテントから離れたところにベアコンテナに入れて保管する
③ ヒグマの逃げ道・通り道を残してテントを張る

①と②は常識として、気をつけたいのは③ですね。テントを海岸線から奥に張りすぎてしまい、ヒグマがテントと海の間を歩かなくていいようにしたい。万一、テントと海の間を歩いている時に驚かせちゃったら、ヒグマの逃げ道がないから危ない!

テントを張ったので、裏の丘に登ってみました。
この写真は360°のカメラで撮っていて、遠近感はiPhoneで撮った他の写真とは異なります。

とっても広くて平らな丘が広がります。これは隆起現象による海岸段丘と呼ばれるものです。これまでとても険しくて人を寄せ付けない感のあった、知床半島とは対象的な雰囲気です。では、どうしてこんな地形ができたのかを考えてみましょう!この穏やかな雰囲気とは真逆の厳しい自然環境が想像できます。

① 隆起する前は、これまでにも出てきた波食台がここににあった
② 波食台が現在のこの位置まで隆起して海岸段丘となった
③ 植物には覆われたものの、半島から飛び出したこの地形は風と塩害が強く普通の植物は成長できなかった
④ 元々が岩盤であったので、土壌が薄く、深く根を張らなければいけない樹木は成長できない。更にシカの食害が追い打ち

東側には北方領土の国後島 あそこも自由に歩けたら、きっと面白いんだろうなぁ。
現実には厳しいけど、返してほしい。取り返したい。

食事はこのようにしてベアコンテナに入れて運搬します。食材とゴミはこのコンテナに入れて、テントから離れたところに保管します。クマの力でも、この容器から食料を取り出しうことはできません。

食事はお湯で戻すだけのシンプルなもの。袋から食べて、鍋とかに匂いを残さないようにします。外で食べることで、テントにも匂いが残りません。

今日は遭遇しませんでしたが、クマの気配が濃い。暗くなってからはしばらく火を焚きました。
今では、火を焚いても熊よけにはならないというのが一般的な見解となっています。

モーニング ベア

朝一番にやってきたのは、ヒグマでした!!!
まだご飯食べてない! 準備しているタイミング。2025年にヒグマが最接近してきたのは、この時でした。

まぁまぁ近いですね。テントがあるんので、簡単に動くわけにもいきませんし。
まだ成獣になっていないのかも、小型の個体です。慌てず、騒がず、淡々とクマを見守ります。みんな、何回もヒグマに遭遇しているかのような落ち着きでした。素晴らしい!!

前日にテントを張る時に考えた通り、クマは山の方へ歩いていきます。

しばらくはテント裏の斜面をウロウロしていました。

途中からはチラチラ見ながら朝ごはん食べたり。そのうち山の中へ消えていきました。

歩いて知床岬へ

ヒグマが行って、テントを撤収して、知床岬へ向かいます。
足跡はこれです

出てすぐ 朝は潮位がまだ高いので、高巻きしないといけないポイント。ほんとにここは難所です。

どこまで行くん?ってくらい急な斜面を藪漕ぎしていきます。前回来たときも、ここで苦労したなぁ。
面白いかと思って、2人に先へ行かせてあげたら、あっという間に迷ってはぐれて、仕切り直し。

漕いで漕いで、樹林帯まで登ります。道があるようで、これはシカの獣道。樹林帯の方が歩きやすい。でも、藪漕ぎしてまた海岸まで降りなきゃいけないのです。

こんな斜面をガシガシ降りていきます!! アドベンチャー感が凄い。そして、岬はまだまだ先なのがわかる。
結局巻くだけで1時間くらいかかっちゃいました!

次は歩きにくい岩なのですが、藪漕ぎに比べたら楽勝!!

ちょっとスピードアップしなきゃ

水補給。さっきの高巻きは消耗しましたね〜

更に進んで、この日の幕営予定地で荷物をデポ。
もちろん、ヒグマの配慮は必要。

身軽になって、岬を目指します。

男滝と女滝 この近くが知床岬へ向かうにはベストなキャンプ地かと思います。こういったほぼ海へ流れ込むような滝も、断崖が続く知床半島ならではですね。

大きな海蝕洞 この上を巻いていきます。

高度感もあり、ドキドキしてなかなかいい感じ!
この辺まで歩いて来ていると、一般登山の常識から外れて、いろんな感覚が麻痺してきています(笑)

ここは下りのロープも危ない! ザック置いてきてよかった。かなり楽。

次は今回のコースで、最も大きく高巻きするポイントが見えてきた。カブト岩の高巻き。

足元に不安がなければ、いくら高くてもいい!!

景色が素晴らしい

ついに知床岬付近まで見渡せました!

ここから海岸まで下るのが、前回は大変でしたが、今回は余裕です。
1週間前程に船からこのポイントを下見したら、ロープが張られているのが確認できました。この下りは支える樹木もないし、滑るし、急だし、かつてはとても危なかった!

この急斜面を下ると、知床岬まで難所はありません!
が、ヒグマの密度が一気に上るポイントでもあります。

あとは、クマさえ出てこなければ、って感じですかね。

そんなことを考えていたら、親子とオスの計3頭が出現!!!

親子をオスが追いかけているような様子でした。子グマは藪の中で見えていません。残酷ですが、オスは親子を追いかけて子グマを殺します。子育て中は他のオスの子供を生むことがないので…。子グマが死ぬと、メスは遺伝子を残すために、再び子を授かれる状態になります。オスは自分の遺伝子を残すために、子グマが邪魔なんですね。人間なら自分の子供を殺した人の子供なんか産まないんでしょうが、クマは違うんですね。

親子グマが最も危険といわれるのは、常にこういう状態に置かれているからなのです。母グマにとって、最大の脅威は人間ではなく、自分の子供を狙うのオスです。そのため、子育て中の母グマはオスから子供を守るために神経質になっていて、少しでも脅威に感じるものが近づけば、命がけで猛烈な攻撃に出ます。

こちらは追いかけているオス。こんな状態なので、人間には無関心な状態のようです。

今回はベアスプレーを1人1本準備しています。何回もヒグマに遭遇するリスクがありますからね。

クマを避けながら歩いて、いよいよ知床岬の手前へ。海岸線から台地まで登ると、広大な平地が広がっています。

あんなに険しかった地形が嘘のように穏やかですね。

この地形は昨日宿泊した、テントサイト裏と同じ。海岸段丘です。波と流氷で侵食されてできた波食台が、隆起することで広大な平地になっています。更に冬の強風と塩害で樹木が育つことのできない環境なんですね。

いよいよ、知床岬へ! ほんとに知床半島は侵食地形の標本みたいなエリアですね。

赤丸で囲ったところは、岩が固くて波や流氷からの侵食に耐えて残っている場所。岩のない海岸線は既に侵食されたところ。遠浅に見える浅い海は全部削られてしまった波食台。上の段は波食台が隆起した海岸段丘です。

知床岬突端です。ついにここまで来ました。やっぱり大変な場所。仕事としては今回限りでいいかな(笑)

もし来るとしたら、お金じゃない動機ができた時だな。

立派な看板とかないし、他に誰もいない静かな岬でした。憧れの山頂に立った時のような、その場では強烈な達成感はないですが、後からジワジワと強い達成感を感じることでしょう。おめでとう!!

さて、復路も長い旅になります。クマに気をつけて帰ります。帰りのコースは行きと同じなので、大半は省略しますね。

帰りだからとクマが減るわけでもなく

山のように下りだから復路が楽になることもなく…
この登りキツかったなぁ。

崖をよじ登って、滑落に気をつけながら下り

巨大な足跡にビビり

最後は雨も降ってびしょびしょになりましたが、無事に帰還!
お疲れ様でした。

知床岬のおまけ

予備日を使わずに、順調に終了しました。知床岬へ行くには予定に1〜2日の予備日をみておきます。予定通り行くとは限らない。
夕食はお寿司を腹いっぱい

今回の案内中に一番キレイに撮れた子グマ
この翌日に、羅臼岳でヒグマの事故が発生しました。

最後はキャンプをして屈斜路湖や釧路川でカヤックやサップを楽しみました。

キャンプ用品やカヤック&サップを友人の倉庫に預けておいてよかった!

普通ならこうやって釧路川を下るだけで旅のメインになりますからね!

知床岬のご褒美タイムですね〜

夜はキャンプ場で

厚岸牡蠣の昆布蒸しは最高です

焼き牡蠣も最高

他にもアヒージョを作ったり

楽しい6日間でした。これで2025年の北海道ガイドは終了!

北海道ありがとう!!!

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