日本の秘境っていわれるとピンとくる北海道の知床岬。
重たいザックを背負い、海岸や断崖、けもの道を雨と汗と海水でビショビショになって歩いて到達した楽園のような知床岬。自然を心から楽しみたいというトレッカーには体験して欲しいと思いました。
これまで私は知床半島自体は30回くらい来ていました。羅臼岳に登ったり、自然観察に来たり、流氷を見に来たり。でも、果たせていなかったのが知床岬に立つこと。船からは見たことあるけど、そんなんじゃダメ(笑)
やっと行く機会があったので、まとめてみました。
知床岬(知床半島先端部)とは
知床岬とは知床半島の先端部にある岬です。日本の殆どの岬は車で行くことができるのですが、この知床半島の先端部には車道はありません。環境が厳しすぎて作ることができなかったとか。船で眺める観光はできますが、一般の観光客は動力船での上陸が禁じられています。(カヤックならOK)
日本で唯一、山と川と海が繋がり、ヒグマなどの野生動物が自由に行き来できる環境が残っています。
知床半島先端部の自然環境
夏の標高0mにもかかわらず、気温は低めです。南から吹き付ける風も強くなります。また、知床岬周辺以外は濃霧になることが多く、日照時間も短め。気温は15℃を下回ることも。海岸だと思わずに、山に登ると思って防寒などを準備する必要があります。
知床半島先端部の魅力
非常に限られた人しか歩いていないということかな。そして、人の手の入っていない(厳密に言えば途中に番屋がありますが)野生動物にとって自由な自然が残っているということ。人間とヒグマの適度な距離感を楽しめるエリアはここくらいじゃないかな〜と思いました
知床半島先端部へのアクセス
知床半島は北のウトロと南の羅臼が起点になります。ウトロは女満別空港、羅臼は中標津空港と釧路空港が便利。船で岬まで観光するならウトロ側が船は多く人気があります。歩いていくなら、ウトロ側からは難易度が高いので羅臼側が一般的。羅臼の相泊が起点になります。相泊までレンタカーが最も便利です。
知床岬(知床半島先端部)を歩くということ
どの山と比べて危ない、大変なんて比較はしませんが、通常の登山とはかなり違う要素が入ってきます。普段は登山しかしていない人は立ち入らないほうがいいでしょう。登山道は整備されているという認識の人は、ちょっと違う。どちらかというとクライミングや沢登りができる人に向いているかな〜。
ロングルート
私は2泊3日で歩きましたが、ややハードでした。通常の登山のスピードとは全く異なります。道を探したり、海岸線をへつったり渡渉したり。水にも濡れます。ゴロゴロした岩は歩きにくく、体力を奪います。人数が増えると時間もかかります。3泊4日程度の準備をしておいたほうがいいでしょう。予備日も必ず設定を!
一般登山以外の技術が必要
登山だけではなく、沢登りや時にはクライミングの要素が入ってくる知床岬への道。入山する場合は様々なシュチエーションになることを想像し、それに対応できる能力を身に着けましょう。それぞれに求められる技術は極端に高くはないですが、総合力が必要となります。
エスケープルートなし
縦走できないからと、エスケープはできません。出発の相泊に戻るだけです。以前は羅臼の漁船に迎えに来てもらうなんて事が許されていたのですが、現在は取り決めがあり遭難時以外は不可です。古いWEBサイトを見て船が迎えに来てくれると思うのは間違いです。歩いていったら、歩いて帰る!
高密度に生息するヒグマ
日本有数、いや世界有数のヒグマの生息密度です。知床半島先端部のヒグマは山から海まで自由に移動できます。エサが豊富にあるので、多くのクマが海岸線を歩いています。興味本位でヒグマを見に行くことは非常に危険です。クマに対する事前の知識と対策が必要になります。
困難な救助
海が一旦荒れると船は近づけなくなります。携帯はもちろん圏外です。立ち入りが推奨されていないエリアに立ち入るわけなので自己責任。携帯電話は相泊周辺以外は圏外です。
知床岬に持っていく装備
少なすぎてもダメ、多すぎても重くなるのでダメ!
ザックが重くなると海岸線のへつりなどで強烈に体力を消耗します。
一般の登山装備
ザック(60L〜70Lくらい)・一般的な登山の服装・レインウェア・グローブ・防寒着・ヘッドランプ・登山靴
下界だとなめずに、しっかりした山の準備を。岩がゴロゴロしているので、登山靴は底のしっかりしたものでないと、非常に疲れます。スニーカー厳禁。
宿泊に必要な装備
テント・マット・シュラフ・コッヘルセット
テント類は軽い物がベスト。海からの風が強いので、山岳用のテントを。マットはザックのサイドや底に装着すると岩場で邪魔なので、ザック内部に収容するように。おすすめのキャンプ地は滝ノ下! 数少ない砂地で、水場も近く、快適な睡眠が期待できます(*^^*)
食料
クマを刺激しないように、匂いのしない加工品を持参しました。匂いがするものを持参する場合はフードコンテナを利用しましょう。
クライミング用品
ヘルメット・スリング・カラビナ・ザイル30m・ハーネス・クライミンググローブ
安全確保に必要な場合があります。ロープワークができない方は、入山すべきではないと思います。8mm✕30mのザイルを持参しました。ザイルは重いので、ファイントラックのロープが軽くていいかも。
沢タビ
靴が濡れる可能性が高いです。沢タビはグリップ力があるので、海岸線をへつり歩く時はとっても便利。サンダルではなく、沢タビ持参を強く勧めます。
クマスプレー
絶対に持っていって下さい!すぐ取り出せる位置に準備を。
浄水器
北海道の川には寄生虫のエキノコックスがいる可能性があります。生水の飲用はおすすめできません。かと言って、毎回煮沸するのも大変です。浄水器でろ過すればすぐに飲用できるので、持参を強く勧めます!
地形図
知床岬への事前の情報収集
ルサフィールドハウス
絶対に半島へ入る前に立ち寄って欲しいのが、相泊の手前にあるルサフィールドハウスです。クマスプレーやフードコンテナのレンタルも行っています。
スタッフの方と話すのも楽しいですよ!
必ず潮汐表をみて、ポイントの通過時刻を考えるように!
知床岬への道のりのポイント
ネタバレあります! ワクワク感が欲しい方は読まない方が楽しいかもしれません。
資料は平成29年 環境省釧路自然環境事務所が発行した「知床国立公園 知床半島先端部地区利用の心得」と知床世界自然遺産ルサフィールドハウス「知床半島先端部地区トレッキング」より抜粋しています。ポイントの写真はルサフィールドハウスの資料です。
観音岩 高巻き
往路は高巻かずに渡渉で行っちゃいましたが、絶対に高巻きのほうが楽です。これでビビるようだと、諦めて引き返した方がいいです。
観音岩の基部を乗り越す。この乗越の南側は約20mの垂直に近い壁になっている。粘土質の非常に滑りやすい土付きになっている部分があり、雨で濡れている際には大変滑りやすいため、雨天時に登攀技術のない者が通過するのは困難である。ロープが取り付けられているが、老朽化しているため、このロープに頼って上り下りすることは極めて危険である。
トッカリ瀬 渡渉・ヘつり
干潮時は楽に通過できるが、満ちてくると難易度がかなり上がります。相泊を出発する時間帯は、このトッカリ瀬が干潮になる時間帯になるように調整しましょう。過去に死亡事故が落ちています。写真は死亡事故が起きたポイントと全く同じ場所です。帰路は干潮の時間帯と合わず、無理をして通過したくなるのですが、気をつけないとこうなります。
干潮時に水面上に飛び石状に頭を出す岩の上を通過する。満潮時には岩は水没するし、潮が引いていても時化で波が高い時には通行は極めて危険である。波は不規則で時に予想外の大波が打ち寄せ、海に引きずり込まれることがあり、過去に死亡事故が発生している。また、この間、数メートルではあるが、水面上の垂直に近い壁をトラバースする部分もあり注意を要する。
モイレウシ南側 高巻き・ヘつり
特に難易度は高くないと思われる、普通の高巻きという記憶しかないです。
モイレウシ湾の南側に突き出した岩の岬の基部を乗り越す。この乗越の南側は15mの垂直に近い崖になっている。ここには漁業ロープが取り付けられているが、老朽化しているため、このロープに頼って上り下りすることは極めて危険である。その約200m南のタケノコ岩基部では、一部波打ち際のテラス状の岩の上を通過する地点があり、満潮時には水に浸からなければ通過できない。また時化ていると通行は困難である。この地点にはややオーバーハングした水面上の岩壁をへつつて通過する部分もあり3~ 4mほどの間ではあるが、大きな荷物を背負ってのへつりには技術を要する。この部分は南側から北側に向かってへつる方が難易度が高い。
剣岩(モイレウシ北側)渡渉
干潮時であれば何でもないが、満潮時の通過は困難を極めると予想できます。通過時刻を調子するようにしましょう。
モイレウシ湾の北側に突き出した剣岩の岬は切り立った崖になっている。ここを通過するには干潮時に崖下の水面上に出現するテラス状の岩の上を歩いて行くことになる。満潮時には人の背丈以上の水深になるため、泳がなければ通過できないが、延長距離は200m余りになるので、強行に突破するのは難しい。また、高巻をしようとすると大変な遠回りになる。ここは干潮に合わせて通過するべき地点である。ただし、干潮であっても時化で波が打ち寄せている時には、テラス状の岩の上まで大波をかぶるので通行できない。
近藤ヶ淵 渡渉・高巻き
渡渉はしていないですが、高巻きの道は途中から何本にも別れ、道を探しながら歩きました。下記で記載の通り、狭く崩れやすいポイントが有り、ドキドキしながら歩いたものです。難易度が高かったので、渡渉のほうがいいと思います。
湾を形作る岩壁の北側が垂直の壁になっており、干潮時には水面に出た岩をへつつて周り込むことができるが、満潮時には通過できない。また、北側数mの区間はへつる足場かないため、大潮の干潮ヒ゜ーク時を除けば、必ず腰まで海に浸かることを覚悟すべきである。秤後の海岸段丘の急斜面には、斜面をトラバースしながら登っていく巻き道ができている。シカ道をそのまま人が使っているもので、狭く崩れやすい道であり、バランス感覚が乏しい人には危険である。乗越の南側は草付きの急斜面であり、裸地化していて雨の際には滑りやすく危険である。
念仏岩 高巻き
比較的高度感のある斜面のトラバースがあり、高所恐怖症の方は大変かもしれません。残置のロープは劣化が進んでいて、積極的に使用するものではありません。必ず自前のロープを出せるようにしておきましょう。ここで出さなくても、次のカブト岩では使います!
高巻きルートの南側は大きくオーバーハングして屋根状に張り出した岩の上をトラバースするルートになっている。高巻きの途中には、表士が大規模に崩落して岩盤がむき出しになっている地点があり、この部分は登攀技術のなし者がロープなしで登ることは困難である。
北側高巻きルートは、一部落差20〜30mの崖をトラバースするところがある。足を踏み外せば深刻な事故発生の危険性のある場所であり、この地点ではすでに過去にも転落して頭蓋骨陥没の重傷を負った例が記録されている。また一部、ほぼ垂直の岩壁を上り下りするところがある。北側にも南側にもロープが取り付けられているが、老朽化しているため、このロープに頼って上り下りすることは極めて危険である。
カブト岩 高巻き
疲れた体には、ここが最大の難所かもしれません。北側の急斜面は脆い急斜面。そこそこのクライミング経験がないとロープでの確保が望ましいと思う。でも、確保する支点が周囲には全く無く、最終的にリーダーは確保無しで降りることとなる。
この地点は内陸側に向かって深い切れ込みがあり、海岸部は干潮時であっても通過できず、標高差100mの高巻きをしなければならない。高巻きルートの北側は非常に急な沢型の斜面になっており、転落事故発生の危険性が大きい場所である。また、浮き石が多く、落石を起こさずに通過することは困難である上に、落石は通常人が上り下りする沢型の中央に集まって落ちていく構造になっており、上方のパーティーが落石を起こせば、落下に従ってスピードを増した落石が、下方のパーティーに深刻な事態を引き起こす。したがって、複数のパーティーが同時に高巻きルートを通過することは極めて危険であり、厳に慎むべき場所である。北側斜面の上部20mほどは崩壊しやすい急斜面のため、ロープなしでの通過は困難であるが、現地にロープ等は取り付けられておらず、また周辺にロープの支点となるような樹木はない。
これらを全て乗り越えると、感動の知床岬が待っています!!
実際に知床岬を歩いたブログはこちらから