山のグレーディングの問題点について考える

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山に登る時の難易度って、どうやって見極めていますか?

ガイドブックを読んだり、ネットで調べたりしてるんじゃないかと思います。
これまで主観的な評価がほとんどだった山の難易度を客観的に数値で表すという試みが始まっています。それが山のグレーディングと呼ばれるものです。

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山のグレーディングとは

山のグレーディングとは、登山ルートの地形や特徴に基づいて体力度(10段階)と技術的難易度(A〜Eの5段階)で評価・分類したものです。一覧表にはメジャーな登山コースが表記され、縦軸が体力度、横軸が難易度を表します。ルートの体力度と難易度を見られるようになっています。ちなみに山のグレーディングは無雪期・天候良好時の状況でのものです。当然ですが悪天候時や積雪期は全く異なったものになります。

全てではありませんが、各自治体が導入または導入を検討しています。初心者から熟達者まで、体力・技術に合わせて、山を選ぶ時の基準にしたいとか。

現在は各出版社や各旅行社がそれぞれの基準で難易度を決めていますが、将来的にこの基準に統一することになるのかもと思い勉強しました。しかし、一見便利なようで、欠点も多く見つけちゃいました。何事も完璧ってことは難しいと感じます。でも事故を減らす新しい試みは応援したいと思います。

今では当たり前ですが、旅行社がツアー登山で体力度と難易度を分けて考えるようになったのは、10数年前。なんと私が登山旅行の難易度を決める時に、体力は5段階・技術は4段階に分けるように提案したのが始まり。

それまでは、初心者向け・上級者向け・熟達者向けなどとのみ表記されたりしていました。岩場はダメでも体力のある人、岩場は得意でも縦走が苦手な人イロイロいますからね。従来の基準では弾かれちゃう、あまり体力はないけど、岩場が得意なお客さんを剱岳に登らせてあげたいと思ったのが、きっかけでした。

山のグレーディングはどうやって決められる?

ルート定数」と呼ばれる以下の式で算出されています。ルート定数を1~10の10段階で分類。というか10以上にならないコースを選んでいます。

ルート定数 = コースタイム(時間) x 1.8 + ルート全長(km) x 0.3 + 累積登り標高差(km) x 10.0 + 累積下り標高差(km) x 0.6

単純に距離と標高差で計算しています。荷物の重さは考慮外。一日あたりの歩行時間ではないことに注意が必要。体力度は最後に10で割り、繰り上げると表記の体力度になります。最大の難易度を決めて割り振っているわけではないので、理論上は10を超えます。
10以上がないのは、それ越えるコースは薦められないということでしょうね。

ちなみにこのサイトで最もアクセスの多い登山記録「大峯奥駈道の場合」のコースの場合

https://yama-guide.com/2015/05/14/omine-okugakemichi/

(コースタイム58時間・距離90km・登り7700m・下り7900m) 58h×1.8+90km×0.3+7.7km×10+7.9km×0.6=213.14となり、単純にグレーディングに当てはめると体力度22となります。そりゃあシンドイわけだ(笑)

山のグレーディング・体力度

体力度1〜3  日帰りが可能
体力度4〜5  1泊以上が妥当
体力度6〜7  1-2泊以上が妥当
体力度8〜10 2-3泊以上が妥当

山のグレーディング・技術的難易度

登山道の状況や、登山者に求められる技術・能力により、A~Eの5段階で評価・分類しています。

難易度A

登山道の状況 概ね整備済み
転んだ場合でも転落・滑落の可能性は低い。道迷いの心配は少ない

登山者に求められる技術・能力
登山の装備が必要


難易度B

登山道の状況 沢、崖、場所により雪渓などを通過。急な登下降がある。
道がわかりにくい所がある。転んだ場合の転落・滑落事故につながる場所がある

登山者に求められる技術・能力
登山の装備が必要
地図読み能力があることが望ましい


難易度C

登山道の状況 ハシゴ、クサリ場、また場所により雪渓や渡渉箇所がある
ミスをすると転落、滑落などの事故となる場所がある。案内標識が不十分な箇所も含まれる

登山者に求められる技術・能力
地図読み能力、ハシゴ、クサリ場などを通過できる身体能力が必要


難易度D

登山道の状況 厳しい岩稜や不安定なガレ場、ハシゴ、クサリ場、藪漕ぎを必要とする箇所、場所により雪渓や渡渉箇所がある。手を使う急な登下降がある。ハシゴ、クサリ場や案内標識などの人工的な補助は限定的で、転落、滑落の危険箇所が多い。

登山者に求められる技術・能力
地図読み能力、岩場、雪渓を安定して通過できるバランス能力や技術が必要
ルートファインディングの技術が必要


難易度E

登山道の状況 緊張を強いられる厳しい岩稜の登下降が続き、転落、滑落の危険箇所が連続する。深い藪漕ぎを必要とする箇所が連続する場合がある。

登山者に求められる技術・能力
地図読み能力、岩場、雪渓を安定して通過できるバランス能力や技術が必要。ルートファインディングの技術、高度な判断力が必要。登山者によってはロープを使わないと危険な場所もある。

山のグレーディングの問題点

グレーディング表を見たらわかりますが、かなり見づらい&分かりにくい。一番見て欲しい登山初心者は、これを見ても理解できないんじゃないかな?

体力度は目安にはなりますが、普段からこういう事ばかり考えているせいか、突っ込みどころは多くあります。

・体力度4だけど、2泊以上でゆっくり歩くとしたらどうなるか?​

・テント泊などで荷物が増えたらどうなるか?

・体力度1の簡単な山だが、登山口の到着時間が遅く急いで歩く場合は?

・初夏と秋では日照時間が違うため、行動可能時間が異なる。ギリギリのコースはどうなる?

などなど、結局はそれぞれの登山形態で各自が判断するしかないと思います。全てには対応できないですからね。
グレーディングをあまり当てにするなと! でもそう言っちゃうと元も子もなくなるし、難しい。

そのうちアプリでコース、宿泊場所、宿泊形態、人数などを入れるとグレーディングが出てくる便利なものが出てくるんじゃないかな??? そうなるのが理想!

旅行会社の難易度表示と比べて​みると

グレーディングの表には細かいことは一切記載されていません。旅行会社の表示する体力度のほうが、登山時期や行動予定時間、持参する荷物の重さを含めて考えているので、明確に難易度の理由を説明できます。同じコースがあれば、旅行会社のパンフレットを見て難易度を予測するほうが正確かなと思います。歩行距離・時間・標高差などがはっき明記されています。以下は私が監修をしている旅行会社のパフレットです。山によっては日照時間によって体力を変更することもあります。

お役所的な分県表示

何より気になるのが、お役所的というか、縦割り行政の欠陥というか
グレーディング表が県ごとに出されている点です。

以下は長野県のホームページより。表をクリックすると県のサイトへ飛びます。

​表だけ見てもわかりにくいですが、地図を見ればわかるかな?? よく北アルプスに行く方なら、こんなコースなんてるかな行かない、効率悪すぎって思うコースがあるかもしれません。そうなんです、効率悪すぎる現実離れしたコースが記載されています。理由は岐阜県に入り込まないようにしているからなんです。(ここでは長野を紹介していますが、実際は岐阜のグレーディングの方がもっともっと変なコースです) 北アルプスに限らずですが、大きな山は基本的に県境にあります。だから縦走すれば、県を越えて歩くなんて当たり前。グレーディングのコースも基本として県を跨ぐものはありません。北アルプスで考えれば、長野と岐阜そして富山の共同作業が求められます。そして、統一の表と地図にするべきです。

​登山者への注意喚起を真剣にやるなら、共同でサイトを開設し、県単位ではなく山域単位で閲覧&ダウンロードできるようにしないといけないはずです。初心者は何県の山に登ろうなんて考えません。穂高や槍を調べるのに2つのグレーディング表を見比べるのはおかしいと思いませんか??

例外は石鎚山系。ここは愛媛県と高知県が共同で作っています。私は2017年まで石鎚山系周遊型ルート構築観光アドバイザーでした。何度も現地へ赴き、登山旅行のアドバイスをし、このグレーディングについても提案しました。各県でやらないで山域でやって欲しいと。その結果かどうかはわからないですが、2018年よりグレーディングの表が県単位ではなく、山域単位で出されたことは嬉しく思います。

北アルプスのグレーディング表をまとめてみた

現在の表では非常に分かりにくいので、独自に北アルプス(2017年の表)をまとめてみました。

長野と岐阜の北アルプスのグレーディング表の合体です。

体力度の順に並べています。また、本来の一覧表では分かりにくいコースは地名を足しています。また数カ所、影響のない範囲で故意に地名を変更しています。(例●岳を●山になど)岐阜県の超マイナーコースは省いています。とこういう表を作ると、Yama◎ackなどキュレーションサイトのライターによくにパクられます。。簡単にコピペされない防衛です。

北アルプスのグレーディング 体力順

2B 畳平→乗鞍岳 ※往復
2B 新中の湯→焼岳 ※往復
2C 新穂高ロープウェイ→独標 ※往復
3B 八方池山荘→唐松岳 ※往復
3C 中房温泉→有明山 ※往復
3D 新穂高ロープウェイ→西穂高岳 ※往復
4B 新穂高温泉→小池新道→鏡平 ※往復
4B 扇沢→蓮華岳 ※往復
4B 一ノ沢→常念岳 ※往復
4B 扇沢→針ノ木岳 ※往復
4B 扇沢→爺ヶ岳 ※往復
4B 栂池→小蓮華山 ※往復
4B 中房温泉→燕岳 ※往復
4B 三俣→蝶ヶ岳 ※往復
4C 猿倉→大雪渓→白馬岳 ※往復
4C 高瀬ダム→ブナ立尾根→烏帽子 ※往復
4D 上高地→重太郎新道→前穂高岳 ※往復
5B 七倉→北葛岳 ※往復
5B 三股→常念岳 ※往復
5B 栂池→白馬岳 ※往復
5C 新穂高ロープウェイ→焼岳→中尾登山口
5C 八方池山荘→唐松岳→五竜岳→アルプス平
5C 白沢→餓鬼岳 ※往復
5C アルプス平→五竜岳 ※往復
6B 新穂高温泉→小池新道→双六岳 ※往復
6B 扇沢→爺ヶ岳→鹿島槍ヶ岳 ※往復
6B 七倉→船窪 ※往復七倉→船窪 ※往復
6C 新穂高温泉→笠新道 ※往復
6C 新穂高温泉→クリヤ谷→笠ヶ岳→笠新道→新穂高温泉
6C 新穂高温泉→クリヤ谷→笠ヶ岳 ※往復
6C 大谷原→鹿島槍ヶ岳→爺ヶ岳→扇沢
6C 上高地→長塀尾根→蝶ヶ岳→常念岳→一ノ沢
6C 大谷原→鹿島槍ヶ岳 ※往復
6F 新穂高ロープウェイ→西穂高岳→奥穂高岳→白出沢→新穂高温泉
7B 高瀬ダム→湯股→真砂 ※往復
7B 中房温泉→燕岳→常念岳→一ノ沢
7C 新穂高温泉→三俣蓮華岳 ※往復 ※巻道
7C 飛越トンネル→神岡新道→黒部五郎岳 ※往復
7C 平湯温泉口→乗鞍岳 ※往復
7C 上高地→涸沢→奥穂高岳 ※往復
7D 新穂高温泉→飛騨乗越→槍ヶ岳 ※往復 個人的には7Cが妥当と思います
7D 新穂高温泉→白出沢→奥穂高岳 ※往復
7D アルプス平→五竜岳→八峰キレット→鹿島槍ヶ岳→大谷原
7D 上高地→涸沢→北穂高岳 ※往復
7E 上高地→涸沢→北穂高岳→奥穂高岳→前穂高岳→上高地
8C 猿倉→大雪渓→白馬岳→朝日岳→蓮華温泉
8C 上高地→槍沢→槍ヶ岳 ※往復
8D 新穂高温泉→双六岳→槍ヶ岳→飛騨乗越→新穂高温泉 ※逆コースも同じ難易度
8E 新穂高温泉→白出沢→北穂高岳 ※往復
9C 新穂高温泉→小池新道→双六岳→笠ヶ岳→笠新道→新穂高温泉
9C 新穂高温泉→クリヤ谷→笠ヶ岳→双六岳→小池新道→新穂高温泉
9C 飛越トンネル→神岡新道→黒部五郎岳→双六岳→小池新道→新穂高温泉
9C 中房温泉→燕岳→東鎌尾根→槍ヶ岳→槍沢→上高地
9E 上高地→槍ヶ岳→大キレット→北穂高岳→涸沢→上高地
9F 新穂ロープウェイ→西穂高→奥穂高→北穂高→大キレット→槍ヶ岳→飛騨乗越→新穂高温泉
10C 新穂高温泉→小池新道→黒部五郎岳 ※往復
10C 新穂高温泉→双六岳→笠ヶ岳 ※往復
10C 飛越トンネル→神岡新道→黒部五郎岳→三俣蓮華岳 ※往復
10C 高瀬ダム→鷲羽岳→西鎌尾根→槍ヶ岳→上高地
10E 新穂高温泉→飛騨乗越→大キレット→北穂高岳→奥穂高岳→白出沢→新穂高温泉

北アルプスのグレーディング 難易度順

2B 畳平→乗鞍岳 ※往復
2B 新中の湯→焼岳 ※往復
3B 八方池山荘→唐松岳 ※往復
4B 新穂高温泉→小池新道→鏡平 ※往復
4B 扇沢→蓮華岳 ※往復
4B 一ノ沢→常念岳 ※往復
4B 扇沢→針ノ木岳 ※往復
4B 扇沢→爺ヶ岳 ※往復
4B 栂池→小蓮華山 ※往復
4B 中房温泉→燕岳 ※往復
4B 三股→蝶ヶ岳 ※往復
5B 七倉→北葛岳 ※往復
5B 三股→常念岳 ※往復
5B 栂池→大雪渓→白馬岳 ※往復
6B 新穂高温泉→小池新道→双六岳 ※往復
6B 扇沢→爺ヶ岳→鹿島槍ヶ岳 ※往復
6B 七倉→船窪 ※往復
7B 高瀬ダム→湯俣→真砂 ※往復
7B 中房温泉→燕岳→常念岳→一ノ沢
2C 新穂高ロープウェイ→独標 ※往復
3C 中房温泉→有明山 ※往復
4C 猿倉→大雪渓→白馬岳 ※往復
4C 高瀬ダム→ブナ立尾根→烏帽子 ※往復
5C 新穂高ロープウェイ→焼岳→中尾登山口
5C 八方池山荘→唐松岳→五竜岳→アルプス平
5C 白沢→餓鬼岳 ※往復
5C アルプス平→五竜岳 ※往復
6C 新穂高温泉→笠新道 ※往復
6C 新穂高温泉→クリヤ谷→笠ヶ岳→笠新道→新穂高温泉
6C 新穂高温泉→クリヤ谷→笠ヶ岳 ※往復
6C 大谷原→鹿島槍ヶ岳→爺ヶ岳→扇沢
6C 上高地→長塀尾根→蝶ヶ岳→常念岳→一ノ沢
6C 大谷原→鹿島槍ヶ岳 ※往復
7C 新穂高温泉→三俣蓮華岳 ※往復 ※巻道
7C 飛越トンネル→神岡新道→黒部五郎岳 ※往復
7C 平湯温泉口→乗鞍岳 ※往復
7C 上高地→涸沢→奥穂高岳 ※往復
8C 猿倉→大雪渓→白馬岳→朝日岳→蓮華温泉
8C 上高地→槍沢→槍ヶ岳 ※往復
9C 新穂高温泉→小池新道→双六岳→笠ヶ岳→笠新道→新穂高温泉
9C 新穂高温泉→クリヤ谷→笠ヶ岳→双六岳→小池新道→新穂高温泉
9C 飛越トンネル→神岡新道→黒部五郎岳→双六岳→小池新道→新穂高温泉
9C 中房温泉→燕岳→東鎌尾根→槍ヶ岳→槍沢→上高地
10C 新穂高温泉→小池新道→黒部五郎岳 ※往復
10C 新穂高温泉→双六岳→笠ヶ岳 ※往復
10C 飛越トンネル→神岡新道→黒部五郎岳→三俣蓮華岳 ※往復
10C 高瀬ダム→鷲羽岳→西鎌尾根→槍ヶ岳→上高地
3D 新穂高ロープウェイ→西穂高岳 ※往復
4D 上高地→重太郎新道→前穂高岳 ※往復
7D 新穂高温泉→飛騨乗越→槍ヶ岳 ※往復
7D 新穂高温泉→白出沢→奥穂高岳 ※往復
7D アルプス平→五竜岳→八峰キレット→鹿島槍ヶ岳→大谷原
7D 上高地→涸沢→北穂高岳 ※往復
8D 新穂高温泉→双六岳→槍ヶ岳→飛騨乗越→新穂高温泉 ※逆コースも同じ難易度
7E 上高地→涸沢→北穂高岳→奥穂高岳→前穂高岳→上高地
8E 新穂高温泉→白出沢→北穂高岳 ※往復
9E 上高地→槍ヶ岳→大キレット→北穂高岳→涸沢→上高地
10E 新穂高温泉→飛騨乗越→大キレット→北穂高岳→奥穂高岳→白出沢→新穂高温泉
6F 新穂高ロープウェイ→西穂高岳→奥穂高岳→白出沢→新穂高温泉
9F 新穂高ロープウェイ→西穂高→奥穂高→北穂高→大キレット→槍ヶ岳→飛騨乗越→新穂高温泉

まとめてみると

各自治体が山の難易度を示すようにしたのは素晴らしいこと。しかし、自治体間で連携が取れていないので県をまたぐ縦走コース等では不都合も生じている。

実際の山の難易度は登山形態、日数で大幅に変わるので、あまりあてにはならない。コースや宿泊予定地を入力するとグレーディングが出てくるようなサイトかアプリが待ち望まれる。

って感じでしょうか。

登山経験者はこれまで歩いたコースがどの難易度に相当するかを、チェックしてみるといいと思います。

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